2024年08月03日

若い魔法助教授サーラーネネメルの愛の箱(1)

サーラーネネメルはデイキシントキシア魔法大全の重い表紙をずしっと閉じた
そんなに簡単に答えが見つかるとは思っていなかったのだけれど見つけられないことが証明されたことが空しかった

サーラーネネメルは故郷のズウィールラミアで天才魔法少女として近隣にまでその名を知られた娘だった
15歳の冬に故郷を取材で訪れた魔法構造学の俊英ネリリルル(当時は助教授)に見出されて
首都ラムダムの郊外にあるブログリューラン王立魔法学校の中級白クラスに特待生として入学した

サーラーが最初にぶつかったのは自分が小さい頃から生活の中で普通に使えて家族やご近所に喜ばれた魔法が
自分勝手に使ってはいけないという王立魔法学校ならではの上品で堅い規則だった

筋目の通った魔法学校の卒業生は他人に迷惑をかけるような新種の魔法を創り出してはならないのだ
というのは表向きの建前で長く魔法に関わっている者は誰しも自分の名を冠した魔法を持つのが夢だったこともじきに知るようになった

サーラーネネメルもご多聞に漏れずその道を辿り優秀な魔法感覚を磨いて創り出したいものの姿を追い求めた
ただ彼女の場合ネリリルルという先輩の微妙な塩梅の指導によって生来の見せたがりと探したがり才が伸長し

思いがけず30年輪を迎える頃には最上級クラスの上の師範クラスを卒業してそのまま指導職員として学校に採用されていた
さらに40年輪の節目には呪文記憶学科の助教授として任命され同時に初級青クラスの担任職を拝命している

サーラーネネメルは人や動物が視たときの愛らしさと品の良さという外観を充分活用して
本来の自分がぜひともやってみたい使い魔のレベルアップと担任クラスの家柄だけは良いが魔法才の少ない幼い者の修学キャパシティの向上に励む日々を送っていた
posted by 熟超K at 21:42| Comment(0) | 魔法小説

2024年07月14日

問題生徒 トリクルトピン(12)

ところで、今まで紹介していなかった最上級クラスの他のメンバーを紹介しよう

ダンドルルブリンはダンドンダン教授も属するダン一族の出でメガネをかけた栗毛の小柄な生徒で呪文分析科目では先生も一目置く頭脳の冴が見られる性別不明の生徒だ

ガジューズルラとガジューズズルは双子の姉弟でズルラは成績上位の魔力補助霊使いでズズルは14名の上級クラスの最下位生徒だが明るい性格でクラスのグループ活力アップの重要ピースとして各教授に重宝されている

紫色髪にエメラルド色の眼と薄緑色のきめ細やかな肌が一際目立つ女の子ネイムルキャレラは異星間交換留学生で異星語呪文と地球語呪文の初中級ハイブリッド魔獣使いで彼女が呼び出す召喚獣は珍しいものばかりだ

バネッシアカルルはピンク髪に赤目のグラマラス高身長女子で思念コントローラー術を使うとされるため実践は禁じられているので能力値不詳だが一般魔術学科と呪文学科の成績は良である

以上の生徒を含む14名が550年余の歴史を誇る王立ブログリューラン魔法学校最上級クラスの生徒である
ちなみに中級クラスは6クラス180名余の生徒が3年間魔法展開法と呪文構造学を基礎課程の1年間で学び2年間の応用実技を経て上級クラスに50名〜60名が進級する

さらに3年間の上級クラスで屋内実践−屋外実践−野外実践を学んで残った20名が最上級クラスに進むようになっている
さらに述べれば最上級クラスでも3年間学び晴れの卒業課程に到達できるのは例年3〜8名である

各クラスでの減員は初級クラス1500名が中級クラスに進む間に魔法適性の薄い者から毎週の小テストで振るい落とされそうして中級クラスに進んだ180名が次の上級クラスに進む間に実技試験や適正審査で脱落していく

さらに上級クラスに進んだ者たちも野外実践で半数近く魔法不適格者になるか命を落とすかするという過酷な過程を経て最上級クラスに進むのだ
posted by 熟超K at 22:21| Comment(0) | 魔法小説

2024年06月24日

問題生徒 トリクルトピン(11)

ガズリンドルムがいつものように手早く帰りの支度をして軽く額に手を持っていく挨拶をして教室を出て行くのを見送ってから一番最後の生徒がやらないといけない室内チェックを丁寧にしてチャルラチャララも教室を出た

チャルラチャララの部屋は寄宿塔3階にあってルームメイトは異世界交換学生のハナレンブリンだった
ハナはアニマトロフィー魔法が得意でクラス受け持ち教授のタンジュールムーア先生に言わせると他の追従を許さない程のレベルだという

でもチャルルチャララに言わせればいい娘なんだけど妙な夢幻動物や魔法動物が集まり易いハナのベッドには絶対に傍に行きたくないと思うしハナ自身の魅力を損ねていると思っている

ハナレンブリンは漆黒の長い髪とオニキスのような黒い瞳と滑らかな白い肌をした異世界情緒たっぷりの女の子だったがあまりに伸びやかに育った身長のせいで同級生男子には敬遠されている

チャルルチャララは自分のベッドの横のライティングデスクの蓋を開けてタンジュールムーア先生が用意してくれた変身魔法の呪文リストの空欄を埋めるべく呪文テキストをハンドバッグから出した

ハナレンブリンの方は同室のチャルルチャララが戻って来たら今日こそ訊いてみたいことがあったのに部屋に入って来るなり勉強らしきことを始めたチャルルチャララの態度に慎み深く不満のため息を漏らす

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2024年06月14日

問題生徒 トリクルトピン(10)

級長のガブリッシュデイは少し頭痛がするなと思い、その理由がトリクルトピンだと推測し、あいつをなんとかしないとこのクラスは、魔法学校の黒歴史に載ることになるなと独り言を漏らした

<ソウダソウダ…>使い魔カメレオンのチャウダーがいつの間にか耳元に這い登っていてご主人の気に入る言葉をキィーキィー声で囁く
その声に思い出したことがあってガブリッシュディは魔法書図書館のいつもの場所を頭にくっきり思い浮かべ位置換え魔法の呪文を唱えた

魔法書図書館は現在では魔法管理委員会によるネイブルトラスト法治国の再興を目指して200年前に設立された古典魔法学の研究施設を兼ねている施設だ

ガブリッシュディが好きな場所は魔族分類辞典、魔獣識別大全、魔界全図、原色魔法植物図鑑などが蔵書されている区画にある「沈思黙考茶房」だ

自分のクラスには自分と同じ学術指向を持つ高邁な者はいないというのが魔法学校12年在籍の結論だった
級友の大半は魔法がこの世に表す変幻事象の効果や利用が目的でそのための呪文習得を第一と考えている輩ばかりでもっと高いところから魔法界を見ることをしない

低レベルの家門の出ならば言わずもがな何百年と続く家門の子弟でも目の前の変化(ヘンゲ)に気を惹かれ易い
我々魔法種族でさえも新たに扱えるようになった魔法となると見かけで満足し易いのだ

もっと奥深い魔法が表している変化の意味とその呪文の出現関係を丁寧に知るべきなのだ
ガブリッシュディは自分が気付いた魔法と呪文の相関関係の深遠についてマルグリ茶を喫しながら考える時間が最高にお気に入りなのだ
posted by 熟超K at 23:27| Comment(0) | 魔法小説

2024年06月01日

問題生徒 トリクルトピン(9)

大体ガズバールみたいな真面目一点張りのノームには悪戯のどこが楽しいのか理解できない

だからぽっちゃり生徒の緑のチョッキから虫を陽炎みたいなのがさっと持っていったのを視たときはこれで良かったと思ったのだがどうやら問題生徒の仕業だったかと分かりげんなりした
「虫はもう取れたから安心しな」と言うだけ言って紅色とかげ蔦の葉の病気の具合が気になるふりをしてその場を離れた

ククリントン13世は苦手なガズバールが行ってしまったので「ふぅ」と小さく息を吐いて結局虫ってなんだったんだろと思ったけれどめんどうなので「まあいいのさ」と照れ隠しにトリクルトピンに言い訳した

いつも悪口を言っていたトリクルトピンが来てくれたお蔭で苦手の園丁から逃れられたことはよかったが
友達になってくれないかとか言われると困るからちょっと胸に手を当てて礼としてこの場を離れることにした

トリクルトピンは“お友だち”の称号をあげるのはやめにして軽く手を挙げる挨拶をしてククリントンの姿が見えなくなるのを確認してまたヒダマリトゲナシサボテンの影に入り数式呪文をオンにして姿を消した
影を選んだのは用心していないと誰かが魔法鏡か水晶玉でこの辺りを視ているかも知れないからだ

それにしても数式呪文の姿消しは魔法マントと違って温室の中でも蒸れないのがいいなと心の中で呟く
これをやると数式呪文の効きがよくなると赤ちゃんの頃パッパがマッマに言っていたのを覚えて守っている

そんなに用心していても百歳を越えているダンドンダン先生の魔法鏡に二人とノームのやり取りは映っていたがちょうど白鴉が窓をコツコツしたので注意がそちらに行っていてトリクルトピンの秘密のひとつはまだ判明しないで済んだ
posted by 熟超K at 22:12| Comment(0) | 魔法小説

2024年05月11日

問題生徒 トリクルトピン(8)

顔は怖いけど魔法学校の生徒の大部分には心遣いするガズバールは
「あんたの可愛らしい緑のチョッキの背中に変った虫が留まってるよ」と猫なで声を出す
ククリントン13世はガズバールは苦手だったのだけれど虫の方が嫌だった

「見えてるんならその虫を取ってくれよ。ここはあんたの仕事場なんだから取り去る理由があると思うよ」
ククリントンのぴぃぴぃ声がガズバールの尖った耳に木霊してイライラが湧き上がる

「わしは忙しいんだ。さっさとあっちに行ってくれ!」急に怖い感じになったガズバールの剣幕にククリントンは震え上がってそそくさその場を離れた

ちょっと離れて二人のやりとりを見ていたトリクルトピンは大したいざこざにはならなかったのでつまらなくなって鼻を鳴らす

ククリントンはガズバールから早く離れたいのとお気に入りのチョッキに付いてるっていう虫を掃いたいのとでむずむずしているところに
「ふん」という馬鹿にしたような音が聴こえたので魔法マントを着た誰かがからかってるなと思った

マントを吹き飛ばしてやれればなあと考えを巡らせるとなんと小旋風(コツムジカゼ)の魔法呪文が閃いた
早速甲高い声で唱えるとククリントンの周りに小旋風が生まれ土ぼこりや落ち葉を巻き上げてぐるぐる動き回る

姿消し数式呪文で消えているトリクルトピンには小旋風なんて何の意味も無いものなので
いつまで小旋風を続けられるのかが次のお楽しみになった

ククリントンの体を中心にゆっくりぐるりと移動している小旋風のせいで広いはずの魔法植物の温室の空気が汚れて園丁ガズバールは大慌てでほこりを巻き上げている小旋風を止めに飛んで来た

ガズバールの大嫌いな子犬みたいに小旋風がまとわりついているのがさっきのぽっちゃり男の子だと分かり
やっぱりあいつはめんどうごとの運び屋だったんだと確信する

「おいっ、ぼっちゃん。温室を汚すんじゃない!」
急にガズバールが怒鳴ったのでククリントンは吃驚して小旋風を操ってる繋ぎ呪文を途切らせてしまう

呪文から放たれた小旋風がその寿命が切れるまでの間
魔法樹や魔法草を何十本も切れ切れにさせて沢山の葉や小枝や土ぼこりをまき散らし
明日中のガズバールの仕事を残して消えてしまう

トリクルトピンはこの騒ぎが大いに気に入って今まで無視していたぽっちゃり君に“お友だち”の称号を贈ろうと思って数式呪文を解消する

急に目の前に現れたトリクルトピンの笑顔を見てククリントンはこれでガズバールの小言から逃げられるとほっとし
一方ガズバールはこいつは上級クラスの連中が“問題生徒”だと噂してる生徒だと気付いて「げっ」と声が出てしまう
posted by 熟超K at 14:31| Comment(0) | 魔法小説