どきっとするような夕焼けの紅が障子を染めている
洗濯物を仕舞い込むときには青空を長い雲が幾条も渡っていたけど
こうして障子を開けて眺めるとずっと太い雲になっていてそれが紅い炎のよう
昨日までの十月は神無月と言うんだぞって
日の本中の神様が出雲の国に出掛けちまってお留守なんだって
与平さんが話してくれたけど
どちみち神様とか仏様がいらしたって
あたしは死ぬまで出会うことなんてないんだろうねって言ったら
そりゃそうだって笑ってた
神社やお寺さんにお参りすれば逢えるんだよって言ってたおとしさんも
そんなに本気で信じちゃいないんだけどねって真顔で言ってた
与平さんのお使いでときどき訪ねるようになった長屋のご隠居さんも
神様や仏様はお宮さんやお寺さんのためにだけ働いてるんだってこぼしてた
それでもこんなにお空が紅く染まってお庭の小さい紅葉も赤くなるのを見ると
神様とかが大火のことを皆忘れないように戒めてるんじゃないかって思う
そう言えば今日からはいよいよ霜月だわ
芝居の顔見世の話を八百屋のお松さんが話してたけど
お芝居見物なんて行ける人がうらやましいわよってあたしもおんなじ気持ち
そんなこと考えてたらもう障子は暗くなってる
夜が早くなったなあ
2022年11月06日
お登勢 その壱七 夕焼け
posted by 熟超K at 00:24| Comment(0)
| 時代小説
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