2020年11月08日

男女男の物語 起之編

いつの時代のことか
博打で大負けに負けて、裸同然の格好で放り出された男二人
秋も深まる大川土手をとぼとぼ歩いていた
ううっさぶっ、こりゃいけねぇ風邪ひいちまいそうだ、と四十に手の届いているような男
くしゃん!いけねえ、俺っちぁもう風邪ひいちまったよ、と二十そこそこの若い男

おお、あすこに家みたいなもんがあらぁ、俺ぁあそこに厄介になるが、おめえはどうすんだ
行くよ行くよ俺だって、風をしのぎてえし、さっきからぽつぽつ、嫌なもんが頭に当ってるんだ
男二人は、土手を下って薄闇の中にしょんぼり建ってる小さな家を目指した
家の周りの草の生え方で、この家がかなり永いこと人が棲んでない様子が知れた

がたぴしさせて、板戸を開けて中に入った年上の男が、おぉいと若い男を呼ばわる
大丈夫かぁ、と云いながら若い男も続いて家内に入り込む
戸ぉぴしゃっと閉めとけよ、と年上男が言うと、へっついの灰を棒で突いて火の気の無いことを確かめる
俺っち煙草道具は巻き上げられってけど、火打ちは残してくれたから何か燃すもんないかな、と若い男

男二人、それから家の中探し回って、ぼろきれや壊れた障子の名残りなんかで、火を起こして暖を取る
一夜明け、辺りがよく見えるようになって、土間から板の間に上がり、人心地した風の年上男が声をかける
おめえは、なにやってる人間だ
俺っちぁ半端もんで、親の家飛び出して、あっちのお店、こっちのお店の小間使いしながらの独りもんよ

そうか、でも真面目にやれてりゃ御の字じゃねぇか
兄いは、なになさってるんで
俺もなぁ、おめえと同じでよ、この歳で相変わらず大工の手伝いやってる半端大工さ
大工さんか、そりゃいいや、なら、このぼろ家ちょちょいと直して、ここに一緒に住もうじゃないか

ああ、どうせ俺も独り身、誰も気にかけてくれるもんはいねぇから、そうしてもいいなあ
そうそう、そうと決めたら俺っちも手伝うんで、ちゃちゃっとやろうぜ
まあ待て、こんなあばら家でも、誰かの持ち物なんだ、近所で様子を訊いてからにしようぜ
お互い、案外真面目な人柄に安心を深めて、それから近所を訪ね、持ち主が死に絶えてることを確かめた

身なりは半裸でおかしいものの、喋り様や顔つきで信用されて、その家に住むことが許された
年上の男は大工の棟梁のところに行って、当座の先手間賃を借りて、必要な物を調達し
若い男も、お馴染みのお店に行って、事情を話して着物を取り戻し、家の中の物を用意した
そして、年上男と若い男は、ぼろ家に段々手を加えていって、どうにか普通に暮らせる家にした

二人の男の暮らしに、淡々と月日が積もって一年ほどが経ったある日の夕刻、年上男が女を一人連れて帰った
若い男が理由(ワケ)を聞くと、年上男は、この女が土手でぼんやり立っていて、身投げしそうで連れて来た
その夜は夜具が二つしかないので、ひとつに寝かせ、男二人で窮屈に寝た
翌朝、若い男が作った朝餉を食べながら、ぽつりぽつりと女が語った身の上話

十五で嫁入った大百姓の家では子が出来なくて、七年で離縁され、それからめし屋の主人に頼まれ、住み込み飯盛り女になり、そのうち客の遊び人に手を出され、めし屋の主人に暇を出され、その先、旅籠の女中に奉公し、またも主人に手を出され、それをおかみさんに手ひどく罵られ、放り出されて行くあても無く、帰る家も無く、途方に暮れて大川土手で、ぼんやり行く末を考えていたら、この小父さんに拾われたのさ

男二人は大いに同情して、行く先が無いならここに居ていい、と声を揃えて笑顔も添えた
posted by 熟超K at 13:58| Comment(1) | 小説
この記事へのコメント
初めての時代物。どうかご覧なすって(笑)
Posted by 作者 at 2020年11月08日 14:02
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