2023年01月20日

お登勢 その壱拾九 小正月

初春だなんて言ったってちっとも暖かくなりゃしない
お登勢の口からこぼれた愚痴が四畳半の部屋にまた溜まる
大正月が過ぎて何日も経つというのに与平はこの家にまだやって来なかった
七草粥まではあちらに行ったきりでも仕方ないと分かってたけど
いくらなんでもちょっとくらい
顔を出したって罰は当たりゃしないのにとすねる気持ちが顔を出す

暮れに風邪で寝込んでいた弥右衛門さんも
去年のうちに元気になって
こんなもんだが正月飾りに混ぜたらいいよと
ちいさな七福神の絵馬をお登勢にくれた
小料理屋に奉公していた頃には
年の瀬までは大忙しで正月一日の休みが嬉しかった
それが二日からはまた眼が回るくらいの忙しさが続いて
人の笑顔や笑い声、賑々しい三河万歳、店先の門松飾りが浮き浮きさせた

今、こうしてこの小さな家で一人迎えた正月七日間の寂しさが
その上にまた一日一日と降り積もって
明日は小正月
もう本所横堀の暮れ六つの鐘が鳴った
今日もあのひとは来ないのかと涙が浮かんだとき
がたっと玄関の戸の音が
おおさぶっと言いながら与平が家に入ってきて
お登勢の遅いおそい正月がやっと今夜やって来た
posted by 熟超K at 14:02| Comment(0) | 時代小説