2022年09月17日

お登勢 その拾伍 つくつく法師

いつの間にか暑さが和らいでいる
洗濯物をひるがえして風が少し涼しさを運んでくれる

遠くでオーシーツクツク…とつくつく法師が鳴いている
あれは惜しいつくづく惜しい、って夏を惜しがってるんだよと言ったのはおとしさん

美味しいつくづく美味しい、って鳴いてるのさと言っていたのは
せんにお世話になっていた小料理屋の清吉親方だ

遠くの声に鳴き返すように近くの木の方でまた鳴き始めた
恋しいつくづく恋しいって、聴こえるわねとお登勢の胸のお登勢が呟く

でもひとしきり鳴き続けてから付足すように鳴く
オイヨース オイヨース オイヨース… ジーっていうのはなんなのかしら

おとしさんも清吉親方もそこはなんて鳴いてるのかわからないみたいで
あたしもなんて鳴いてるのかどおしてもわからない

でも一生懸命に鳴いて気持ちを伝えたいんだろ
子供だった頃同じ長屋の権ちゃんが捕まえて来たつくつく法師を見たけど

真夏のミンミン蝉より小さくてよくあんなに大きな声で鳴けるもんだって思ったっけ
まだ遠くで鳴いてた声が止った…

与平さんの着物ももうすぐ秋ものになるんだろな
あたしが選んだんじゃない秋の着物に…
posted by 熟超K at 11:21| Comment(0) | 時代小説