2022年08月21日

お登勢 その拾四 西瓜

去年もこんなに暑かったかしらねぇ
八百屋の店先で久しぶりに出会ったお登志がため息交じりにぼやきを吐いた

今年は三代さま以来の暑さだって言いますよ
こんなどうでもいいような世間話でも話す相手がいることが嬉しいお登勢

あら西瓜があるわね
そうねと答えたもののお登勢が食べたことがあるのは小料理屋に奉公していたときに
お客のお下がりの四角く切った小さなのが二度ほどあるだけ

おとしさんが言ってる西瓜がどれなのかわからない
あたしゃ暑気払いならところてんの方が好きなんだけどねとお登志

店先で話し込んでる女二人に気が付いて八百屋のおかみさんが声をかける
おいしいよ中はしっかり赤くって水気たっぷりで甘みもあるよ井戸で冷やしてやったら亭主が喜ぶよ

八百屋のおかみさんが手に取ったものを見ると黒い皮にもっと黒い縞模様のある丸い大きな瓜
これが西瓜かと見とれているとほらよとお登勢の手に渡す

おっと重いわと驚くと重いだろ実がしっかり入ってるからねとおかみさん
そうだねほらこうして実をぽんぽん叩くといい音がするんだこりゃ実が入ってるわねとお登志

なんだかわからないうちにその西瓜を買うことになりこんなお買物ができる嬉しさに財布の紐も緩む
重いのを汗かきながら家に運んで庭の隅にある井戸に縄で括って投げ込んでおく

日が暮れる頃与平がやって来る
見ると重い西瓜を下げている

あらあら西瓜冷やしてあるのよとお登勢が言うと
そうかそりゃ気が利いてるなお前と食べたくって買ってきた西瓜が

もう冷えて待ってるなんてこりゃ豪儀だ
こいつは明日にでも長屋のご隠居さんに届けておくれとにっこり笑う与平の優しさ
posted by 熟超K at 21:39| Comment(0) | 時代小説