去年もこんなに暑かったかしらねぇ
八百屋の店先で久しぶりに出会ったお登志がため息交じりにぼやきを吐いた
今年は三代さま以来の暑さだって言いますよ
こんなどうでもいいような世間話でも話す相手がいることが嬉しいお登勢
あら西瓜があるわね
そうねと答えたもののお登勢が食べたことがあるのは小料理屋に奉公していたときに
お客のお下がりの四角く切った小さなのが二度ほどあるだけ
おとしさんが言ってる西瓜がどれなのかわからない
あたしゃ暑気払いならところてんの方が好きなんだけどねとお登志
店先で話し込んでる女二人に気が付いて八百屋のおかみさんが声をかける
おいしいよ中はしっかり赤くって水気たっぷりで甘みもあるよ井戸で冷やしてやったら亭主が喜ぶよ
八百屋のおかみさんが手に取ったものを見ると黒い皮にもっと黒い縞模様のある丸い大きな瓜
これが西瓜かと見とれているとほらよとお登勢の手に渡す
おっと重いわと驚くと重いだろ実がしっかり入ってるからねとおかみさん
そうだねほらこうして実をぽんぽん叩くといい音がするんだこりゃ実が入ってるわねとお登志
なんだかわからないうちにその西瓜を買うことになりこんなお買物ができる嬉しさに財布の紐も緩む
重いのを汗かきながら家に運んで庭の隅にある井戸に縄で括って投げ込んでおく
日が暮れる頃与平がやって来る
見ると重い西瓜を下げている
あらあら西瓜冷やしてあるのよとお登勢が言うと
そうかそりゃ気が利いてるなお前と食べたくって買ってきた西瓜が
もう冷えて待ってるなんてこりゃ豪儀だ
こいつは明日にでも長屋のご隠居さんに届けておくれとにっこり笑う与平の優しさ
2022年08月21日
お登勢 その拾四 西瓜
posted by 熟超K at 21:39| Comment(0)
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