2022年01月15日

お登勢 その七 独り正月

年越しと新年を迎える賄金は、与平から充分もらっていた
けれど、新年のお屠蘇とお雑煮おせち料理を、独りで味わっているお登勢
与平が正月に家を出られないのは分かっている
正月三が日は、ここに来にくいのもわかっているのだけれど

でも、七草粥まで独りで食べることになるなんて
お登勢の目から露が滑り出た
それにしても、律儀な与平がまったく姿を見せないのは解せないことではあった

もしや本宅のおかみさんとなにか揉めて来られなくなってしまったのか
そんなもやもやしてるのが正月早々の心持ちなんて、やっぱりわたしは日陰の身なんだと
どうしてもうつむきがちになるお登勢だった

与平が
以前居た小料理屋「〆の屋」に通い始めたのはお登勢目当てなんだよと
おかみに言われてなんとなく気になると、どうやら与平もその気があるような素振りを見せる

最初は小上がり座敷で仲間と飲んでいた与平が
お登勢が粗相をした際にかばってくれたときから後は
料理茶屋を目指し始めた店主が新たに設けた二階座敷に一人で上がるようになり
万事を呑み込んでいるおかみも、お登勢を名指しで上客の相手をさせた

そんなある夜
いつもに増して上機嫌な与平が急にお登勢の手を取り
なんと柔らかできめ細やかな手だろう指先だろうと、言うや小指をやわっと咬んだ
刹那お登勢の背筋に震えが走って力が抜けた不思議が今でも胸に籠っている

その夜のうちに
女と男の秘めごとを分かち合え
お登勢の中のなにかが溶けて
与平に頼る生き方を選ぶことになったのだった

火鉢の炭の赤い輝きを見つめながら
過ぎた日の残像が現れるのを止められないお登勢の耳に
がたっと玄関の戸が動いた音が聞こえた途端
胸の血が熱く身体を巡り始める正月七日の夜のこと
posted by 熟超K at 13:44| Comment(0) | 小説