2023年09月30日

お登勢のお話休止のご案内

江戸ものに心惹かれ
ふと頭に浮かんだ女主人公の「お登勢」でしたが

つい最近、同名の小説もドラマもあることを知りました
主人公の名を決める際、いつもネット検索しているのですが、今回はついつい(お恥ずかしい)

幸か不幸か、特に話題にもならない(私の)短編小説でしたので
大過なかったものの、分かった以上はこれにてフェイドアウトとさせて頂きます

さあこれから、でしたが主人公名を変えて続けるほどでもないので
作者一人の脳内記憶とし、後は夢の中ででも楽しむ積りです

さらばでござんす、江戸のお登勢の物語り〜
posted by 熟超K at 15:50| Comment(0) | 時代小説

2023年07月30日

お登勢 その弐拾四 翌(アス)は秋

奥庭に水を撒き終わって八畳間の麻の座布団に斜に座ってふっと息をつく
今年の夏の暑さもまだまだ終わりが見えないわね

ちょっと手を抜くと生い茂る夏草もあらかたむしり取り
朝顔の根元に水をやり終えて一息つくとふわっと涼風が通り抜けてお登勢は満足した

この後、盥に水を張って汗落としの洗濯をしてと段取りをぼんやり考えていると
それとは縁の無い想いがお登勢の胸に忍び込む

与平はこのところますます商売が忙しくなり月に三度が二度になり
いつの間にか夕餉の用意も独り分で済ますことが多くなっていた

夏場は特に残した菜も傷み易いから特に月中から晦日は用意しなくてよいからと
与平が言ってからお登勢も得心して日々の菜の買い物もそれに合わせている

そうなるとますます暇ができるので空いた刻には昔務めていた小料理屋の
台所手伝いをして重宝がられていた

そんなことで家を空けていても与平もご近所も誰も気に留めない日々のうち
たまに八丁堀の大旦那からのお誘いがあれば出かけることもある中で

一昨年の大飢饉と流行病で亡くなった人々の御霊を慰めるとして
昨年から始まった大川川開きの花火見物が人々の人気を集め

今年は去年に倍する規模でつい一昨日催され紀伊國屋の大旦那が貸切った桟敷に
よろしかったらどうぞお越しをと使いが来たので気軽に出かけた花火見物

その席で文衛門に思いがけず言い寄られ
なにかにつけ与平との男の違いを見せられていたお登勢は我ながら驚くような応じ方をした

なにかにつけやって欲しいことを先回りして心遣いを見せる与平とは違い
お前がしたいようにすればよいと言う風な鷹揚な応対をする文衛門の大きさを感じさせる扱いに

どちらがどうということでもなく
新しい男と女の心と体の交流の心地よさにお登勢は安心して身を委ねることに躊躇はなかった

与平さんに申し訳ないと言い聞かせる自分はうっすらと遠のき
先行きにあやふやなものを感じていた昨今の暮らしがこのことをきっかけに開ける気がしたことも事実

ほっと気が付き見回す八畳の座敷の寝れ縁に赤い蜻蛉がふわりと停まる
もうすぐ秋が来るんだわとお登勢は独り言を漏らす
posted by 熟超K at 14:50| Comment(0) | 時代小説

2023年05月27日

木の精に出会ったワタシ

IMG_9907木精少.jpg

そうです
公園を散歩していたら
確かに居たんです
見てすぐわかりました

木の精がこちらを睨んでいたんです
びっくりしたワタシは
それでもスマホでなんとか1枚だけ写真を撮って
後はただ逃げるだけで精一杯でした

この写真が証拠です
“気のせい”じゃありません
居たんです確かに
がく〜(落胆した顔)
posted by 熟超K at 21:06| Comment(0) | 時代小説

2023年05月19日

お登勢 その弐拾参 皐月 風光る

雨戸をがらがらっと勢いよく開けると朝の光が八畳の部屋に流れ込む
お登勢は雨戸の開け閉めをするのが好きだった
昔住んでいた長屋には雨戸なんてなく障子の戸が外と内を分けているだけだった
小料理屋では女衆は奥の一間に二人で寝起きしていて明り取りの小さな格子窓があっただけ
店の雨戸は男衆が開け閉めの当番を務めていた

今のしもた屋に引越して来たら八畳の間の障子戸の外側に雨戸の通る溝があって
最初に与平がこの家に泊まるとき雨戸を戸袋から出して戸締りをしてくれ
翌朝には雨戸をまた戸袋に仕舞って見せ
こうやるんだよと教えてくれたとき
お登勢は自分の住まうこの家が与平がいないときにも護られているんだと心が温かくなったものだ

その感覚は今朝もあるのだが幾分変わっている気もする
前月の昼下がりに迎えに来た清瀬という上品な女に連れられて
八丁堀にある江戸で評判の紀伊国文衛門の瀟洒な屋敷で見聞きしたこと全てに
気配りの行き届いたもてなしと男女を意識させない闊達な話しぶりに
与平の素朴な心遣いとはまた違う大きな男の生き様に心の奥が活気を帯びたのは真であった

今開け放った奥庭の新緑の柿の葉を揺すって陽の光を帯びた風が頬を撫で
雨戸が守っているものの本当の値打ちを青空に向けて解き放てたことが
お登勢に膨らむ気持ちの理由を教えてくれているようだ

posted by 熟超K at 22:57| Comment(0) | 時代小説

2023年04月23日

お登勢 その弐拾弐 卯月春の嵐之前

昨夜はしとしと雨が降っていたのに
明るくなると青空になっていて
鳥の鳴く声がよく響いて風に春から初夏に変わる匂いがする
でもお登勢の目にはそんな晴れ晴れしい季節も色褪せて映りおる
与平が忙しさにかまけてこの家を訪れていない日がもう七日も続いているから

ちょっと首を振って気分を変えようとしたお登勢の耳に玄関の方から誰か呼ぶ声が聞こえた
女のか細い声が自分を呼んでいる
もしお登勢さんのお住まいでしょうかと呼んでいる
は〜いと返事して庭から座敷に上がってそのまま四畳半に入ると
玄関の障子戸が少しだけ開いていて隙間から人の立っている影が見える

まさかあたしんとこに訪ねてくる人がいるなんてと訝りながら
もしかしておとしさんかなとも考えてみたけれどやって来る理由がわからない
も一度はーいと返事してがらりと戸を開けると見たことのないよい身なりの女の人が立っていて
お登勢さんでございますねと口を利く

わたしは八丁堀に居を構えますさる大店の主より託けを申し付かって参った者でございます
こちらのお方と手前どもの主が双月に二度もぶつかるご縁があったとか
これはなにやら前世のご縁かはたまた神仏のお引き合わせか
一度しっかりお目にかかってお話など伺いたいと申すのでございます

そんなこと仰られてもあたしにはそんな縁など分かりようもございませんと
声に出してお断りせねばと思うものの
あのときぶつかった恰幅の良い大店のご主人の大きな笑顔も思い出され
なんと返事をしたらよいものかと戸惑ううちにその女の人は

それでは今からご案内仕りますのでどうぞお出かけのご用意をと涼やかに申される
もともとお登勢は場の勢いで流されるようなことのない女だと自分を信じているものの
こんな上品な女の人に逆らう言葉も持ち合わせぬ身ゆえ
ただなんとなく己が運命の流れる方向を確かめてみたくもなってそれでは支度しますので
と返事することになりゆきた

玄関の上がり框に座布を用意し
自分は奥の八畳間にて与平に買ってもらった黄八丈にいそいそ着替え
姿見に映して見てからお待たせしましたと迎えの女の人の前に出る
まあお似合いでと言う言葉にまんざらでもなく気分も浮いてお登勢は一歩踏み出した
posted by 熟超K at 22:24| Comment(0) | 時代小説

2023年03月30日

お登勢 その弐拾壱 弥生春霞

部屋の隅に吊るしてある綿入れを見て
そろそろ袷の用意をしなきゃとお登勢はぼんやり想っている
今年はとうとう花見に出掛けなかった
与平はますます商売が忙しくなって今月は数えるほどしかこの家に来ていなかった
本宅のおかみさんもやっぱり相手をしてもらえてなくて
このところいらいらが激しくてお店の番頭さんから小僧さん女中さんまで大変なんだと
八百屋のおかみさんがわざわざ教えてくれた

それはあたしがよく買い物するから贔屓にして教えてくれてるのか
それともあたしがどんな生業かわかった上で面白がってるのか
どっちなんだろっておとしさんに訊いたら
八百屋のおかみさんも亭主とよく喧嘩してるくらいだから
面白四分に贔屓六分なんじゃないのって笑ってた
男が居れば煩いし居なきゃ居ないでなんか寂しいんだねって言ったおとしさん真顔だった

そんなこと思い出しながらどうせ今夜も与平は来ないだろうと
思ってる自分に嫌気が差して
お登勢は夕餉の支度までまだ間があるから
くさくさしてたって仕方ないわとちょっと表に出る気になった

吾妻橋に向かって歩くと人の出、賑わいが増して
花見気分に少しずつ心が染まり隅田川まで足を伸ばしたくなる
土手の桜並木がぼんやり見え始め
ああこれが春霞というものなんだわとお登勢はひとり腑に落ちる
なんだか夢の中を歩いてるみたいな心地に足を任せて歩くうち
どんと人にぶつかってしまう

すみませんと謝るお登勢におや桜の化身にぶつかったか
と大きな笑顔で声掛けたのはいつぞや初午の人ごみでぶつかった
恰幅の良い大店のご主人その人だった
posted by 熟超K at 20:48| Comment(0) | 時代小説